ゆり組便り

新学期が始まり、年長になった喜びにあふれた子どもたちがいます。

大きな声で「おはよう」と挨拶をしてくることで大きくなったことを主張する子、スキップが止まらない子、乗りやすい大きな自転車を選び、それを満足そうに乗りこなし春の風を満喫する子など様々です。何はともあれ、大きくなることは嬉しいこと、冬の後、やっぱり春は必ずやって来るのだと実感すること、生きているということを味わう時なのです。

 

さて、こひつじ幼稚園の園庭には、大きな白樺の木が高く高く空に向かってどっかりと生きています。40年以上頑張っている白樺の木です。この木は、これまで私たちに命のことを教え続けてけてくれました。ゴールデンウィークが開けると一気に葉っぱが吹きだします。夏は砂場を木陰にしてくれました。枝は子どもたちの製作に使いますし、皮は、火おこしに使うとすぐに火が付く知恵も教えてくれるのです。

私はこの春、子どもたちと大地から吸い上げる白樺の水を味わわせ、枝先の葉っぱを生まれさせる生命の力を見せたいと思いました。

子どもたちに、園庭にできた高い山の雪はどこへ消えたのかを投げかけました。「水になるよ」 「雪解け水で遊んだもん」 「水たまりになっていた」 「泥水だよ」 「土の下へ行ったのかも」

土の中はどうなっているんだろう」 「ミミズがいるよ 」 「虫たちがいる」 「もぐらもいるよ」 「根っこがあるよ」 「根っこが飲んでいるんだよ」と、土の中に思いを巡らし、思い思いの気づきを口にしながら、これまで遊んで学んだ知識を仲間と精いっぱい響き合わせるのでした。

チューリップの根っこ、草の根っこ、木の根っこと、思いを巡らせた時、私は、白樺の木を話題にし、白樺の木が、根っこから本当に水を飲んでいるか実験する方法があることを伝えました。

 

子どもたちが白樺の木の周りに集まりました。きいと君にドリルで穴を開けてもらいました。そこにストローを指すと、やがてストローから命の水が落ちました。一滴一滴と途切れることなく流れました。子どもたちはびっくりしました。身体をひねって大きな口を開け、ストロー先から落ちる命の水を飲んでみました。「甘いね」その甘さにまた子どもたちはびっくりしました。「そうか、この木は一生懸命生きてるんだ」 「頑張って葉っぱが生まれるように、水を吸っているんだ」 「強い木なんだ」 「すごいんだ」と、子どもたちは心を揺さぶられたのです。

ずっとあったけれど、今まで気にしなかった木が一気に身近になった瞬間でした。そして、同じ生きている者同士であることを実感したのです。きいと君は、白樺の歌を作ってうたいました。「♬がんばれー、がんばれー、シラカバー  ♪がんばれー、がんばれー、シラカバー  ♩がんばれー、がんばれー、シラカバー」と独特のジャンプで歌い、いつの間にかみんなで白樺の木に向かって大声で大合唱になりました。春の空にこだましました。白樺の木のいのちを実感できた活動でした。

 

私は、この命の水をもっと教育に活かせないかと考えました。放課後先生方と雑談しているうちに「そうだ、メープルシロップがあるのだから、シラカバシロップができないものか」と思いついたのです。誰もしたことはありません。そうであればやってみる価値はありそうです。白樺の穴に刺したストローに大きなビニール袋をかけて帰りました。明日の朝が楽しみになりました。

 

わくわくして出勤してみると、大量の水が溜まっていました。子どもたちの言った通りの、強い木でした。私は命の強さをいまさらながら知らされた気がしました。子どもたちと、その水を確認しました。

「すっごーい!すごーい!」の連発でした。透明の袋と大きなやかん一個分に入った命の水を大切に学級に運びました。子どもたちは「いのちの水がこんなに重い」ということも知りました。

 

さて、ホットプレートにいのちの水を注ぎ、煮詰まっていく様子に子どもたちは注視するのでした。「湯気っていうんだ」 「雲のところにいっていつか雨になるんだ」 「いのちの水が少なくなってきたよ」 「味が濃くなってきた」 「もっと甘くなった」 「すごくいい香りがする」 「甘い香りがする」 「優しい香りがする」・・・

子どもたちは、自分の遊びの合間に何度も何度もホットプレートの周りにやってきて、味見をねだるのでした。そして味見をした後ににんまりとした笑顔で満足そうにするのでした。

 

2時間ほどが経ちました。学級の中は、すっかりふんわりとした甘さに包まれていました。手を洗った子どもたちがこの香りにうっとりとして集まってきました。食パンをシロップに浸して食べてみました。「甘いね」 「おいしいね」 「すごいね」 「いのちだね」と子どもたちのつぶやきが聞こえてきました。

たんぽぽさんにどういうものか自信をもって説明する子がいました。そうしておすそ分けをしました。みんなで仲良く一緒にいるのはなんて美しく楽しいことでしょう。いつの日か子どもたちの心が弱くなる時、この白樺の木の強さや優しい甘さを思い出せる子どもであってほしいと思いました。

 

「新しい、大きくなった自分」と「強くて優しく甘い白樺の命」に重ねながら年長の始まりが豊かにスタートしたことをうれしく思います。

このようにこひつじ幼稚園だからできる活動がいくつもあります。私も逃さないようにしていくよう努め、子どもの生活を支えていきますが、保護者の皆様にもご理解いただくことがあると思いますのでその折にはよろしくお願いします。

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