「知りたがりの冒険の世界」は、意欲の渦巻きで(NO.6)

なぜか子どもはちょっと高くなっている所を登るのが好きだ。よろよろして、落ちても案外しつこく続けたがる。そうしても、何が起こるわけでもないのに、なんだか面白いから、やめられず続けてしまう。意味なんてない。私も、子どもの頃は、人の家のブロック塀の上を歩き続けた。ランドセルがバランスを欠くから難しい。バランスを失い股間をぶつけ気を失いかけたことは1度や2度ではない。大人たちは、そんな意味のない危ない所を歩かないで、安全な道をもっと早く目的地に着くようにと願うのだ。大体、大人は人の領域に足を踏み入れることも嫌うのだ。子どもは、その入り方も心得ているというのに。
 そう言えば私の母もその一人だった。「一回くらいどこにも寄らず、何もせず、真っ直ぐ家に帰ってきなさい」と、何度言われたことだろう。私は「どこにも寄らないことはできるかもしれないけど、何もしないで帰るわけにはいかないよ。帰り道に、知っている人に挨拶するし、角を曲がったお家のベル(塀の所に繋がれている犬)に今日の出来事を話さないといけないし、お花の蕾が開いているか見ないと。学校帰りも案外忙しいの」と言うと、「その後、あなたのせいで私が忙しくなるの」と言った母の深い眉間のシワと魔女のような吊り上った眉毛が忘れられない。でも、今ならわかる。例えば、「このりんご持って行きなさい」とか、「この花、おうちに飾りなさい」と言っておばさんのお庭の花を切って持たせてくれたりすると、母はいちいちお礼に出向くことになるからだ。母の知らない人となると、家探しも厄介だ。

 子どもの運動遊びに平均台がある。両手を広げ、身体のバランスをとって前に進んでいく。園庭に平均台を出すと、さっと子どもたちが集まってきて、チャレンジし始める。そして、物足りなくなった子どもたちが、さらに平均台を長く繋げていき、自分の中にあるバランス感覚を楽しむ。年長になると更なるドキドキ感を楽しむため、100センチの高さにチャレンジしていこうとする。すごいドキドキが伝わるほど、諦めそうになるほど慎重に渡ったはずなのに、わたり切った顔は「どうだ!」と、自信に溢れた大人びた顔になる。ブロック塀を渡り歩いた私もそうであったのかもしれないと思う。
「チャレンジしたい運動遊びがあるか」と、尋ねられた子どもたちは、去年は憧れていただけの運動遊びだった「跳び箱、縄跳び、ジャンプにチャレンジしたい」と言う。その心に正面から応えようとする教師がいて、園庭は一気にチャレンジだらけになっていく。意欲の渦巻きだ。見ていて実に楽しい。
 放課後の教師たちは日々、クタクタに疲れている。それでも、子どもの心の動きやチャレンジの様子、感動、子どもをうまく導けない悔しさ、明日の計画などをキラキラした瞳で伝え合う。眉間のシワと魔女のような眉毛はない。「いいなぁ、幸せだなぁ、子どもたち」と、素直に思う。
「運動遊びの会」と同じように、毎日くり広げられている園庭の運動遊びを見ていたら、子どもの頃、繰り返し読んだ「ひとまねこざる」の最初のページを思い出した。

これは、さるの じょうじです。 どうぶつえんに すんで います。
じょうじは、かわいい おさるさんでしたが、とても しりたがりやでした。
じょうじは どうぶつえんの そとが どんなにか しりたくて しかたが ありません。

 「知りたがりの冒険の世界へ」入っていくワクワク感こそ、子どもの意欲を強くするのだと思った。言葉を置き換えてみる。

これは、わたしたちのこどもです。 おうちに すんでいます。
こどもは、かわいい にんげんで、とても しりたがりやでした。
子どもは おうちの そとが どんなにか しりたくて しかたが ありません。

 子どもが「今、知りたいこと」「今、やってみたいこと」「今、興味を持っていること」に正面から向き合って、一緒に喜び合える親であってほしいと願う。そうしないと、「今」という時も、「知りたがりの冒険」の時も過ぎてしまうからだ。
「運動遊びの会」は、そのような心の日であった。保護者の皆様は、自分の子はもとより、ひとりひとりの子どもの頑張りに、たくさんの拍手をしてくださった。そして一緒にゲームを楽しんでくださった。笑顔が溢れていた。3日間が終わり、子どもの「知りたがりの冒険の世界」は、当然のようにさらに広がっていった。その証拠に会の終わった午後にも、運動遊びが展開し意欲の渦巻きは、激しさを増していっていたのだ。
 この秋、子どもたちは教師たちと共に「知りたがりの冒険の世界」を旅するだろう。冒険は、ブロック塀の上を歩くようなものだ。安全ではない。バランスを失い、股間をぶつけ気を失いそうになるほどの出来事もあるのかもしれない。先生をもっと困らせたっていい。冒険なんだから。

*10月の予定*
7日 感謝祭
11日 あそびましょ
13日 誕生会
14日 避難訓練(火災)
15日 2022年度入園願書配布
22日 わくわく組学級懇談会
26日 ゆり組、たんぽぽ組学級懇談会
27日 つぼみ組学級懇談会
28日 2022年度わくわく広場弟妹受付
29日 2022年度わくわく広場受付