こころとことば(NO.11)

 大変なご時世ですが、私たちは今の時期を楽しく、思いを深く豊かに過ごせている幸いに感謝します。満3歳の子どもたちが、「さかえせんせい、おはようございます」と、名指しで挨拶をしてくれるようになってきました。わくわく組(広場)の子どもたちは、満3歳になって幼稚園に通い始め、お母さんと別々の世界をもち、始めは友達とも言えない同じ年齢の仲間と出会い、日常の多くは思いのままに遊び、他学年の遊びが時々目に入り刺激され、少しづつかかわりを楽しみ、自分の世界を広げてきました。担任が安心の人であった彼らは、「友だち」とつるんで廊下の研究所の様子を見たり、作りたい思いを伝えたりするようにもなってきました。
満3歳児の経験として、家族以外の人に出会い、これまで子どもなりに獲得した言葉を発してみる時です。状況に合わない言葉や不明瞭な言葉であっても、自分の思っていることをとにかく伝えてみる時なのです。また、伝えてみたい時なのです。そして、相手の表情などのやり取りを通して、また大人に気づかせてもらって、「こんなふうに言ったら、いいんだ」「こんなふうに言ったら、嫌なんだ」ということをひとつひとつ学んでいくのです。始めは、言葉の遅い子もいます。それでも今頃になると、日々のあふれる言葉を耳にするうちに、会話が成立していきます。当然、傷つける言葉も、わがままな言葉も、友だちに怒る言葉も聞かれます。それでも、私たち教師は、お話することができるようになったことを喜びとして、「そんなふうに言ったら、友だち(ママ)は悲しいよ」「そう言ってくれたら、友だち(ママ)はうれしいよ」と、心地よい言葉を学べるようにしながら、コミュニケーションを豊かにできる言葉を育てていきます。お母さんも同じようにして下さっていることでしょう。大人の常識や、型にはめて「そんなこと言ってはいけません」「嫌なことをいう子だ」と言ってしまうと、子どもの「言えた気持ち」が削がれてしまいます。私たちは、言葉を獲得させながら、その言葉の思い(心情)をとても大切にしているのです。
さて、節分が過ぎました。幼稚園は、コロナ感染のため休園になってしまいました。それでも、こひつじ幼稚園には、日にちを間違えた怖い鬼が節分を過ぎてから突然やってきました。年長の部屋に鬼がやってくると、怖くて泣く子、自分にやましいことの心当たりがあり顔が引きつる子、諦めて呆然とする子、少しでも友だちの後ろに隠れる子など、様々な姿がありましたが、それでも鬼は容赦しません。一人、また一人と首根っこを捕まれみんなの前に引っ張り出されます。「お前のよわーい心はなんだ!」と、問いかけられます。小さい声だったり、ぐずぐずしたりしていると、鬼は「山に連れて行って、丸めて食ってやる」と、ダミ声で言います。しかし驚くことに、ほとんどの子が震えながらも自分の心の内を答えられるのです。みんなの前で泣きながら、「すぐに兄弟と喧嘩してしまう。自分が悪いの、気を付けます」「お母さんにわがままを言ってしまう。ごめんなさい」「人のものを盗んでしまうの。この手が」「わ、わ、私は、いい子で生きています」(嘘バレバレ)・・・・・ 自分を正直に真っ直ぐ見つめ、同時に、どう生きることが正しいのかを知っていて話していると思いました。そうして、最後に外に出て泣きながら「鬼は外」と一生懸命叫び、悪い心、弱い心を捨てに行ったのでした。
私たちは、今月の聖句で「私のうち(心)に 新しい正しい心をお与えください」という学びをしています。オニとのかかわりの中で、「本当に正しい心」を考え、「新しく生まれ変わる」機会を繰り返すことのできる幼児期を大事にしたいと思っています。
首根っこを捕まれ、みんなの前に引っ張り出された子の中に、このような子がおりました。鬼の前に不安そうに下を向いて立ち、少し間をおいてから、ほっぺを真っ赤にして鬼に向かって「私は、嫌な心は、クリスマスの時に捨てた!」と言い切ったのです。その堂々とした物言いに鬼は驚き、たじろぎました。クリスマスに捨てたということは、自分の中にクリスマスまでは嫌な心、弱い心を持っていることに気づいていたということを意味します。クリスマスに私たちは「愛と希望の光」を手に入れました。クリスマスの意味を深く理解し、あれからこの子は「真っ直ぐに生きようとしてきたのだ」と、改めて思わされました。その堂々とした言い方に感動し、涙が流れました。
私は、この子の満3歳の頃を思い出していました。お母さんと離れられず、大泣きを繰り返したスタートでした。優しい姿は山ほどあるものの、友だちに意地悪をしてみて、わがままも言ってみて、相手の様子をうかがっていることもありました。幼稚園では多くを話さない姿がありました。3年後の今、こんなにも心が育ってくれたことを本当にうれしく思いました。小学生になっても、自分に自信をもって生きていくことでしょう。正しい心の在り様を求めて生きていくに違いありません。
また、このような事がありました。
 ある日、私は研究所で年中組の女の子と、針と糸を使ってお人形を作っていました。女の子は、縫い物ができることにワクワクしていました。「私は、大きくなったのだ」と言わんばかりです。そこへ満3歳わくわく組の男の子がやってきて「何しているの?」と聞きました。男の子は、学級から遊びの場を広げ、研究所に関心を持ち始めた子どもでした。女の子は、「お人形を作っているの」と、大人びた声で説明しました。男の子は「そうなんだ」と女の子の顔と、その手元を何度も確認して去っていきました。「僕には針と糸は無理だ」という感じでした。私は、女の子に「あの子、なかなかおしゃべりできなかったけれど、上手に話せるようになったのね」と、大人に言うように言いました。すると女の子は、「子どもってすごいよね」と、もっと大人っぽく言い返してきたのです。「そう言うあなたもすごいわよ」と私は心の中で思いました。
様々な経験を通し、言葉を通して心が育ち、心はさらに豊かな言葉を求めていくのだと思いました。満3歳、3歳、4歳、5歳、6歳と成長していく幼児期は、子どもが、ひとつひとつの経験を通して、自分の心を見つめ、相手の心を思い図り、自分の正しい生き方までも見つめる機会となるのだということをしっかりと捉える必要があります。そうして育てていくことが、この先の人生を豊かに生きる力になるのだと信じています。大切なことは、それを急がないことです。こひつじ幼稚園では、このことをじっくりと、繰り返し経験させ育てていきます。ですから、親は満3歳で、年少で、うろたえたり悩む必要はありません。子どもの力を信じ、前に向かえるよう支えることです。

*3月の予定*
1日 ゆり組学級懇談会
2日 わくわく組・広場学級懇談会
7日 たんぽぽ組学級懇談会
8日 つぼみ組学級懇談会
10日 お別れ会
11日 誕生会
25日 第69回 卒園式
28日 修了式