ゆりかご(NO.12)

 一年を振り返ると色々な思いが巡ります。
ある日の私は、朝一番で銀行に行かなければならず、車を走らせていましたら、信号でこひつじ幼稚園の年中組の母子が、登園していく様子を見ました。何やら話をしながらニコニコと楽しそうでした。秋口、「反抗期で、すぐに言い訳して困っている」と言っていたお母さんでした。また、あるお母さんは、満3歳児の子どもを抱っこして登園していました。足元の悪い中、子どもを落とさないように真剣な顔をしていました。こんなところから抱っこしてくるのかとびっくりしました。「調子のいい甘えん坊で困る」と言っていたお母さんでした。今、春の入り口に来て、どちらの子も自律してきました。
 自律は、人間同士のべったりとした関係の中で芽生えます。甘えることは、自律の前提だと考えています。十分に甘えて、反抗してみて、自律していくものです。ですから、親に満足するまで甘えられること、反抗してみて気まずい気持ちを味わえることはとても大事なことです。
甘えることを許さず、反抗すると叱り、親の過干渉(ああしなさい、ほらみんなはあんなことしている)の親の子は、いつまでも心が不安定で自律が遅れます。「お母さんがいるから大丈夫よ」と、でんと構えていれば不思議なもので、ちゃんと自律していきます。子どもは、甘えと反発を繰り返しながら自律していくものなのです。
 幼稚園時代は、そのことを何度も繰り返していいのです。焦らずに過ごすことが大事です。もうすぐ小学生になる年長は、十分にそれを繰り返してきた子どもたちです。もしかしたら、まだ、その途中にいる子もいるでしょう。それでも、卒園の今、自分の得意を知り、自分の弱さにも気づき、自分はひとりではなく仲間がいる素晴らしさ、諦めないこと、失敗しても乗り越えられる自分、神様は明日を用意してくれているという感謝などを、それまでの経験から学びとります。私たちは、どのような時も、大人の立場ではなく、子どもの心を理解することのできる者として、行ったり来たりする子どもの心を優しく包む「ゆりかご」となり、子どもの心を支え続けることが必要です。

 来る日も来る日も、社会情勢と睨めっこしながら、感染状況を確認し、一歩一歩進んできた一年でした。私たち教師は、時には自分たちの力ではどうにもできず、悔しくて涙したり、怒ったり、苦しくなったりと穏やかな一年を過ごせたわけではありませんでした。子どもの豊かな生活のための計画はどんどん変更を迫られ、実現できなかったこともありました。
縮小せざるをえないことを、他の遊びの中で豊かに過ごせるよう、私たち教師の「ゆりかご」を大きくゆらゆらさせながら、子どもの心が育ちゆくよう努力してきましたが、今一年を振り返ると、保護者の皆様のご理解とご支援がなければ、このような生活が実現出来ませんでした。それは保護者の皆様が、子どもたちがより豊かにすごせるように心を砕いてくださり、教師たちの健康や頑張りを応援してくださった生活でもありました。改めて、お礼を申し上げます。

*4月の予定*
4日 始業式
6日 入園式