「遊びこんで学ぶんだ」(NO.12)

 こひつじ幼稚園の廊下には研究所があります。かつては水槽に使われていた蛍光灯が壁に取り付けてあり、手元を明るくしてくれます。この一年も、この研究所で、多くの物語がありました。この場所で子どもたちは何を学んでいたのでしょう。
 研究所で作りたい子どもは、自分の遊びのタイミングで、職員室にいる私に声をかけてきます。「園長先生ー」と叫びます。職員室は2階ですから、小さい声では聞こえません。聞こえないのですから、私も応えません。どうしたって、自分の計画を実現させたい子は、しつこく何度だって、大声で叫ぶのです。大きい声が届いて、私の姿が見えると「来たー」とジャンプする子もいます。我慢できずに、2階の職員室に上がってくる子もいます。
夏頃までは「なんか作りたい」という子がいますが、「なんかじゃ、作れないの。何を作りたいのか明日まで、考えてきてね」と宿題を与えます。忘れずに、考えたことを私に報告した子は、必ず実現できるようにします。
研究所の反対の壁には本棚があり、100冊以上の図鑑が並んでいます。ボロボロになるほどよく使われた本です。どの子も図鑑を広げ、作りたいものを真剣に研究し、製作に臨みます。研究所の椅子に座る時には、多くの知識をもっています。発達の違いによって、私の手伝い方は変わります。布や段ボールや、木などのパーツを切ったものを組み立てることを楽しませる段階から、子どもがハサミを使って、細部までこだわって作ることを応援するなど様々です。
年長になると、設計図を書いてきて「このように作りたい」と訴える子がいます。やがて、預かりの時間までも計算して、スケジュールを立てるようになります。
 廊下ですから、いろいろな子が友だちの作っている姿を目にします。最初から最後まで憧れの気持ちで真剣に見ている子がいます。見ていたのに、ふと手を出して「おさえていてあげる」と、手伝ってくれる子がいます。「ありがとう」が生まれます。「なに作ってるの?」は、嵐のように聞かれますが、聞かれている以上、作り主は答えなければなりません。「頑張ってね」と声がかかれば、作り主は「ありがとう」と答えますから作る方も忙しいのです。そのような中で、ずっと見ていた子が、ずっと後になってから「自分も今日は作りたいものがあるの」と研究所にやってくると嬉しくなります。「次の研究、予約するよ」と約束を求められたこともあります。
子どもは本当に作ることが好きです。それは2歳の子が脳と身体が繋がり、思うように歩いたり走れるようになった段階を経て、3歳以降は、脳と手先の動きがつながり、自分のイメージしたことが実現できる喜びが生まれ続ける段階へと育っているからなのです。
作っている時は、私と意見をかわしながら真剣に楽しく作品に向き合うのですが、研究にあたり、作り始めは多くの子が敬語で話をします。子どもが真剣に研究に向き合おうという気持ちが伝わってきます。例えば、真剣に図鑑の魚を指さし、「これを作りたいです。今、いいですか?」というのです。
 ある時、年長の男の子が自分で描いた設計図を見せ、こう言いました。「園長先生、これは未来の銃で、僕が考えたものなので、今は図鑑にありません。作るとすれば、園長先生でも難しいと思うんです。5日はかかります。一緒にできますか?」と。私は、「難しそうですが、一緒に頑張りましょう」と応え、製作が始まりました。製作している中で色々な話をしました。「僕、わかったんだ。やりたい事を考えて決めるでしょ。でも、一人ではできないことってあるでしょ。でも、手伝ってもらって、一緒にチャレンジしてみると、実現することができるんだ。実現は、自分の考えたイメージがぴったりということだよ。そうして、最後まで頑張るといいんだ。研究所ってそういうところだよね」とさらりと話してくれたのです。
子どもは、好きな事を通して、思いを実現させていく方法を自分の力で獲得していくことができるのだと実感します。作りながら話している、子どもの横顔を尊敬の目で見ている自分がいました。
完成した作品は、学級でも、おひさま広場でもそれぞれに先生方が受け止めてくれ、製作発表の場へ引き継がれます。発表の場では、「どこが一番大変でしたか?」「どうしてそれを作りましたか?」と敬語で質問があり、本人が丁寧に答えていきます。なんて堂々とした、自信に溢れた姿かと、見惚れてしまいます。
小さな研究所は、製作を目的とした学年を超えたコミュニティーの場であり、自分の意思を伝えなければ一歩はなく、手伝ってもらえれば必ず実現することのできる場所であり、いろいろな人から応援され、刺激をもらえる場所であり、技術を学ぶ場所であり、作る事を通して発表の仕方、答え方、言葉遣い、時間の見通しなどの社会性を身につけていく場でもあるのです。苦労して作った経験のある子どもやそこでの喜びを知った子どもは、今度は作っている人の思い分かって、温かい目で見つめる心を養うのです。
たっぷりの遊ぶ時間の中で、自分の目的を見つけ、実現させようとする力を少しも否定されず、喜んでチャレンジし続けられることは何て幸せなことかと思いますし、そのような心を育むことが教育の土台だと思うのです。こひつじ幼稚園の子は、「なにして遊んでいいかわからない」という子がいません。どの子もすぐに目的を見つけ、楽しめちゃいます。

ある日のおひさま広場の時間は、いつにない大雪でした。全員、ニコニコして外に行く準備をしていました。私は、「え−、外遊びするの? 大雪よー」と言うと、「だから行ってみたいんでしょ」「だから遊ぶんでしょ。今は冬だよ」と言われてしまったのです。このようなことも、とことん楽しもうとする心の子どもたちが、その後も伸びゆかないわけがありません。

保護者の皆様へ
卒園 修了 おめでとうございます

とうとう一年が過ぎてしまいました。
こひつじ幼稚園の生活を通して、子どもの成長を見つけられたことをアンケートにしたためていただきましたこと、ありがとうございます。大切に読ませていただきました。
年長児までの3,4年は、コロナ感染対策から始まり、コロナ感染が落ち着くまでの戦いの生活でした。みんな頑張りました。今年度は、それを吹き払うかのように喜びの中でコミュニケーションを楽しもうとするママたちの姿を見せていただきました。玄関でのママ同士のやり取り、笑顔の挨拶や、どのママクラブもとことん楽しんでいる姿がありました。
何より、幼稚園として嬉しいことは、保護者同士が学年を超えた、楽しさに満ちた交わりの中で、幼稚園の教育を応援していただけた事です。温かい目で子どもたちを見ていただき、そして、たくさんのご理解とご協力をいただき、教師たちを支えていただけましたことは、感謝以上の言葉は見つかりません。
職員一同、心深くお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。来年度も、在園児の保護者の皆様にお力をいただきながら、子どもを真ん中において、よりよい教育を目指そうと思います。またお力をお貸しください。

卒園する保護者の皆様も、在園の保護者の皆様も、共に光の中を歩むお互いでありますように祈ります。

*3月の予定*
1日 誕生会 
6日 お別れ会、わくわく懇談会
7日 ゆり組懇談会
11日 つぼみ組懇談会
12日 たんぽぽ組懇談会
15日 第71回卒園式
19日 修了式

*4月の予定*
8日 始業式
10日 第72回入園式