夏休みの思い出 (NO.6)

今年の夏は、寝苦しい暑さが続いています。誰一人健康を崩しませんようにと願いました。寝返りばかりして寝不足で出勤する私の心配をよそに、預かり保育に参加している子どもたちが、暑い空気の中で意欲的に遊んでいました。汗だくで友だちに自転車の乗り方を教えている子や、泡のプールでリゾート気分を楽しんでいる子、園庭の日影と日向の違いを楽しんでいる子、お昼ご飯の後、大の字で気持ちよさそうに昼寝をしている子など、どの子どもも暑い夏の今日を精一杯生きている姿に励まされる自分がいました。心に残る一日をと心から思いました。

私にも幼稚園の夏休みの忘れられない思い出があります。
兄とケンカをした時、あなたはまだ無理なのねという顔で母親が言いました。「相手の立場になって考えたら、相手の気持ちが想像できるものよ。だけど、気持ちを想像できるかがポイントなの」と。とても兄の立場など考えづらいと言い返したい気持ちの5歳の頃でした。

あの日もジリジリした夏の日、いつものように原っぱに行って虫探しをしたり、覚えたての三つ編みを草で編んだりしました。そんな時はいつも決まって一人でした。長く伸びたエノコロ草を根本から三つ編みにして私を中心に大きなサークルを作りました。私だけの世界を作るのはお手のものでした。三つ編みサークルの真ん中に寝転んで、ジリジリを感じていたら、地面には色々な虫がやってきます。ゲジゲジ虫が、三つ編みの根本を掻き分けて歩いて行きます。わらじ虫が連なって歩いています。尺取り虫が暑さに関係なく規則正しく私の服の尺を計りながら動いています。三つ編みの上をキラキラ光った羽の羽虫が渡ります。バッタが羽を擦る音、蝉の声、近所のおばさんが誰かを怒鳴ってる声…。楽しんでいるうちに、ウトウトしてしまうこともありました。
ふと目を覚ますと、目の前にヤモリがいました。じっと私を見ていました。ずっと見つめ合う間、ヤモリは喉を引っ込めたり出したりして息をしています。私は、できるだけ息を止めていました。ヤモリのパッと開いた手がかわいいです。見惚れていると、三つ編みの根元に消えていきました。我に返り、すっごく喉が乾いていた自分に気づき、家に帰ろうと決めました。ふと、「虫たちは喉は渇かないのかな?」と思いました。水筒を持ってこなかったことを悔やみ、今度原っぱに来る時は、虫たちにもあげようと思いました。家に帰ってすぐに、「お母さん、明日は水筒持って原っぱに行くの」というと、母は「すぐそばだもの、喉が渇いたら帰ってきたら?」と言いました。「違うの、私、虫の気持ちが想像できる人なの」といいました。このジリジリの暑い夏に相手の立場になって考えたら、相手の気持ちが想像できるものだと確信しました。すっごく喉が渇いた虫たちを想像しました。次の日、私の水筒の水を昨日の三つ編みサークルに撒きました。この出来事は、世界中に秘密にしようと思いました。

幼稚園の園庭で遊んでいる子どもたちが、虫を乗せた右手を差し出し、「先生、キンキラ虫(羽虫)がいっぱいいる日だよ。何食べるの?」と聞きました。「虫は、お腹空いてそうかい?」「うん、ぺこぺこそう」「白樺の木の葉っぱを見てごらん。茶色くなっているのは、キンキラ虫が食べたからなんだよ」「わー、いっぱい食べたんだな。お腹が空いて飛べないんじゃなくて、お腹いっぱいで飛べないんだなー」「水のむかい?」と。二人で大笑い。

幼稚園には、あの頃の私を理解してくれる子どもたちが嬉しいくらいたくさんいます。二学期、我が子にも「世界中に秘密にしたいこと」があるかもしれません。そっと見守り支えてください。
長い学期です。心の成長を大きくする時です。教師たちも心を尽くして臨みます。よろしくお願いします。

*9月の予定*
1日 誕生会
4日 あそびましょ
21日 運動会
29日 公開保育